雨がざあざあと音をたてて降っている。
悲鳴がまじったような息遣いと、余裕のない男の息遣いが混ざりあっていた。
激しく肌と肌がぶつかり合い、その度に甘い痺れが全身を襲う。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。なにかの間違いではないのだろうか。きっとそうに違いない。そうでなければこんなのは残酷だ。
また彼がわたしの耳元で囁く。
わたしは小さな声で「やめて」と両手で鶴丸を拒んだ。
*
明日は鶴丸と出会って一年がたつ日だ。
いつもわたしが恥ずかしくて素直になれず無愛想な返事をしても、笑顔で許してくれる鶴丸にお礼がしたかった。だけどわたしはいまだになにも用意できていない。
誰よりも早く夕餉を食べ終え、みんなにばれないように本丸を出た。シフォンのワンピースに着替えたわたしは現代に戻り、急いで鶴丸へ送る品をえらぶ。
彼は一体なにを渡せば喜んでくれるのか、そもそもわたしからもらって受け取ってくれるのだろうか。すぐに後ろ向きな考えばかりがうかんでしまう。
でも明日くらいは素直になりたい。今までありがとうと……好きな人にいいたい。
いつも身に着けて貰えるものにしようか悩んで結構やめる。優しい鶴丸はたぶん気をつかってしまうから。
わたしは硝子細工のお店に入った。
薄い色の花や、虎、三日月の形の硝子細工と色々ある。鶴丸はなにを渡せば喜んでくれるだろう。どれも綺麗で可愛くて……儚くて迷ってしまう。
ふと、鳥のコーナーに目がとまる。小さな鳥やひよこにまじって大きく翼を広げた鶴がいた。きっとこれならおどろいてくれる。
わたしはにやけてしまう口元をおさえて、レジへ向かった。贈り物用として包装してもらい、小さなメッセージカードもつけることにした。渡す時に素直になれるとはかぎらないから。
……書いたメッセージのことを思い出すだけで顔が赤くなりそうだった。
明日、どうやって鶴丸に渡そうか考えながら帰り道を歩いていると、アクセサリが売られているお店の前で足がとまった。
「あ」
自分の視界にうつるものが信じられなくて、軽いめまいを覚える。
白い髪。蜜色の優しい瞳。細い体。……その男はわたしが現世用に渡したワイシャツとジーンズを着ていた。
隣には明るくて可愛らしい女性がいて、二人は顔をみあわせて笑っている。
わたしはその男のあんなやわらかい笑みを知らない。あんな風に頬を染めた姿も知らない。そんなのあたりまえだ。わたしはいつも彼を怖がってまともな返事をかえせない。彼が喜ぶことのひとつもできないのに。
はやる気持ちを抑えて、足を動かす。
みていられなかった。
喉が渇いて、舌がひりひりと痺れた。
ざわざわと耳に雑音がはいる。わたしを縛るように、ゆっくりと髪や服がわたしの体にはりついた。
本丸に帰る頃にはもう日はすっかり落ちていた。
まだ耳元でざわざわと嫌な音が続いている。それに体は重たくて、もう地面に倒れてしまいたい。
「驚いた。どうしたんだ、こんなところで」
近侍の鶴丸が傘を持った手をのばした。ぱたり、ぱちり、と頭の上から水音がする。
「服……」
「ああこれか。君にもらった服だからな。時々着たくなるんだ。そういう君はどうしたんだ、その」
「なんでもない」
わたしは今、彼をみたくない。自室に戻りたくて鶴丸をすり抜けようとするが腕を掴まれた。握られた腕が熱くて、胸が締めつけられそうだった。
「なんでもなくはないだろう。俺にも話せないのか」
振り払おうとすると、鶴丸と目があった。
「君、泣いて――」
「鶴丸には関係ない! ふられたの、放っておいて!」
鶴丸の目が大きく開いた。嫌だ、こんな姿みられたくない。わたしは……。
「いたっ」
鶴丸がわたしの腕を握ったまま歩きだす。
「ねえ、鶴丸痛い。離して!」
歩はゆるめず、ちらりとわたしを振り返る。彼の目があまりにも無感情で、わたしは怖くなってそれ以上何もいえなくなった。
鶴丸はわたしの自室まで連れて行ってやっと手を離してくれたと思えば、あかりもつけずにわたしの肩を掴み押し倒した。
「君はそんな恰好で他の男と会っていたのか」
「なにをいってるの、鶴丸」
「俺の前ではこんな服、着てくれないだろ」
胸の輪郭をゆっくりとなぞられて、ぞくりと背中が震えた。
「それに雨にぬれて、肌着がみえている。他の奴にみられたらどうするんだ」
「どうもしない」
「そうか」
ぬれた足に鶴丸が指を這わせた。信じられない気持ちでわたしは彼をみる。
「ねえ鶴丸、なにをしてるの? やめて」
「……どうもしないんだろう?」
鼻と鼻が触れそうなくらい顔を近づける。鶴丸はみたこともないくらい冷たい顔をしていた。
なにかいおうと口を開くと唇を噛まれ、あまりの痛みに悲鳴がでた。
じわりと広がる痛みに耐えられず口を動かさないでいると、ぬれたワンピースはたくしあげられてしまった。下着にまで手がかかり、抵抗しようとしても既におそかった。その細腕のどこにそんな力があるのだろう。恐怖のあまり顔がひきつってしまう。
「鶴丸、ねえ」
どうしてそんなに怒っているの。そういおうと鶴丸をみると、わたしの両ももを開かせて股の先に顔をちかづけていた。
「待って鶴丸やめて!嘘!待って!嫌、だめそんなことしちゃだめ!やめてつるま」
彼の頭を押し戻そうとするけど、やっぱりそんなことに意味はなくざらりとした舌がわたしをなめた。
「やっひゃっ、だめねえお願いやめて!」
ぺろりぺろりと数回なめると鶴丸はわたしの中に舌をいれてちゅうっと強く吸い、品のない水音がした。
「ひぁああああああああ」
強すぎる刺激に体ががくがくとふるえて、息が荒くなる。口でされただけでたっしてしまった……。
「いれるぜ?」
「え」
口元を歪めて、鶴丸がわたしをわらう。なんのことをいっているのかわからず、わたしはその綺麗な顔にただみとれていた。股の間からぐちゅりとなにかがはいる感触がして、やっとその言葉の意味を理解する。
ずぶずぶと音をたてながらわたしの穴がふさがっていく。
「い、いや」
涙がでた。どうしてわたしは鶴丸に襲われているのかもわからないし、彼にはちゃんと好きな人がいるはずだ。わたしを抱く理由がわからない。彼はそんな不誠実な人ではないとおもいたいのに。
雨の音にまじって、厭らしい水音がする。
鶴丸がゆっくりと律動をはじめた。
ざあ ざあ ざあ ざあ
くちゅ くちゅ ぐちゅ ぐちゅ
「やめて」
右手で彼の胸を押してもその手はとられて、二の腕の内側をちゅうっと吸われてしまう。
「やだ、はっやめ……」
うわごとのように何度もわたしは拒絶の言葉を口にする。もうそれしかわたしには抵抗する手段はなく、鶴丸はというとその言葉をきくと眉を寄せているような気がする。
「ねえ、つるま……んっ」
両腕を畳の上におしつけられ、口の中に薄くてやわらかくて……あたたかいものがはいってきた。
はあ、はあ、と動物のような息遣いがきこえる。
鶴丸は腰を動かしながら、わたしの歯茎を優しくなでたり、頬の裏をひっかくように触れたり、きつく吸いついてきたりした。緩急をつけてせめられているせいか、気持ちいいなどとおもってはいけないのに感じてしまう。こんな酷いことをされているのに、わたしはどうしようもないくらい鶴丸が好きなのだといやでもおもい知らされて涙がさらにあふれる。
なんの前触れもなく唇がはなれた。暖かかった口の中がひんやりと冷たくなる。鶴丸はわたしの唾液で唇をぐちゃぐちゃにぬらして泣きそうな表情をして艶っぽかった。
そして彼はその唇をわたしの耳に近づけた。吐く息が耳に触れて、わたしはそれだけで体が悦んでしまう。
「――だ」
懇願するような声だった。
そんなのはおかしい、と心のうちで否定する。
「君が――」
ききたくないききたくないききたくないききたくない。
首を横にふる。こんなこと、わたしはのぞんでない。いつもの鶴丸に戻ってほしい。もう今日みたことなんてすべて忘れてしまいたい。そうだ忘れよう。全部、忘れよう。忘れなきゃ……でも本当に、忘れられるのだろうか?
「いや、やめて」
これ以上はたえられなくて、かすれた声をだした。案外あっさりと顔がはなれてほっとする。
また、目があうと鶴丸は淡く笑む。目の下がぬれている。ずぶぬれのわたしの髪が彼にあたったのだろう。
両腕が自由になるかわりに腰をつかまれ、じわりとさらに奥へ鶴丸がはいっていく。
「あっ」
自分でもきいたことのない声がこぼれ、お腹の中まで熱くなる。
雨でぬれた体を汗と粘液がさらにぬらす。
そんな汚いわたしを鶴丸がかたく抱きしめた。びしょぬれのわたしを抱きしめたせいで、鶴丸のシャツもぬれてしまう。
どきどきしてしまうのが悔しかった。
雨の音も。卑猥な水音も。肌と肌がぶつかりあう音も。お互いの息も。お互いの心音も。
全ての音がまじってとけて、わたしの耳を犯していく。それを防ぐ方法はなく、ただこの行為が終わるのを待つことしかできない。
「やめて、鶴丸」
わたしが拒絶すると、鶴丸はわたしの耳元で謝るように囁く。
「――だ」
それを聞くたび、わたしは鶴丸と女性が笑っていた姿を思い出して胸が痛くなる。あんなに幸せそうに笑っていたのにどうして……。
「あっ……」
体を抱き起こされ、いれたまま彼の上に座る状態になった。
ぬれすぎた体はすこしこすられるだけで、気が狂いそうになるということをはじめて知った。甘い刺激から逃げようと腰を動かせばよわい場所がぐちゅりと摩擦し、あまりの気持ちよさに鶴丸の胸に自分の体をあずけてしまう。
わたしは鶴丸から逃げたいのに、彼は嬉しそうにわらってわたしをやさしくだきしめるから……ああ、もう。
――とうとうわたしの腰が快感を求めて動いてしまう。
「んっあっ……はぁっ……」
びくりびくりと何度も体がふるえあがった。
「そんな風にぬれて乱れる君はいやらしいな」
「んん、だめ……おく、やんんんんんん」
一層激しく鶴丸が突きあげた。
「あまりきつくしめられると……」
「じゃあ、動かないで」
「君の中がきもちよすぎるのがいけないんだ」
「んあっ、やっ、ああっはぁっ――」
中に、生温かい液体がはいってくる感触がした。それでも鶴丸はとまらずわたしをせめてくる。その正体がしりたくて、わたしは自分と鶴丸が結びついている場所をみた。彼の肉棒に白くてどろどろしたものがふちゃくし、それをわたしのなかにだしたりいれたりを繰り返している。
「ぬ、ぬいてこのままじゃ」
「すまんがまだ出そうだ」
また奥に液体が吐き出される。
わたしの膣の伸縮も収まらず、ごくりごくりと彼の白をのみこんでしまっている気がする。
「あっだめっも……は、はっ、あっ」
頭の中までもが真っ白になる。視界はぼやけて、耳鳴りがした。
「はぁ……ほんとうにきついな」
「んあ」
鶴丸は今度は腰を激しくふるのをやめて、わたしの最奥を執拗になぞりだした。
「はっ、これだ……め」
「なら力をぬいてくれないか。このままだと動きにくい」
「うそだ」
だってこんなにわたしはぬれているのだから、動かそうと思えば動かせるはず。
鶴丸から逃げようとわたしは腰を浮かせると、その後を追うように鶴丸の腰があがった。
「――――――――ああああ」
「なんだ、主から動いてくれるのか」
「ちがう。これは鶴丸が激しく動くせいで体があがってしまうだ、ひゃ」
絶頂した後のせいか、喘ぎ声をおさえることができない。
「やだ、もう無理こんなっん」
「最後までつきあってもらうぜ、主」
鶴丸が余裕のなさそうな顔で笑う。
――そこから意識を失うまでのことをわたしはぼんやりとしか憶えていない。
やまない雨音をききながら何度も何度も執拗に体を求められ、わたしの中は彼がいれた白であふれていた気がする。