後編

 夕餉は鶴丸と薬研の三人で食べた。その後すぐに風呂にはいり部屋に戻ると、今日の出陣の報告書を書いた。怪我をした刀剣もいないので、それほど大変な仕事ではない。それにまた体がおもたくなりはじめた。痛みがひどくないうちに書いたほうがいいだろう。
 それが終われば、日課の日記も書かなくては。
 今日はなにを書こう。

「主」

 からだがびくりと飛びはねた。振り返ると、口の端を歪ませる鶴丸がいた。黙って襖をしめて近づいてくる鶴丸が怖い。
 もうなにをいっても無駄だろうけど、わたしはいいわけの言葉を探してみる。

「ちがうの、これは――」

 開いた唇に舌がはいってわたしは息をとめた。わたしの唾液ではない唾液が喉をとおる。

「……んっ」

 力が抜けそうになるわたしの背を、鶴丸がささえた。
 求めてもいいのだろうか、と舌を絡めようとすると唇がはなれてしまう。鶴丸はどこか悲しそうな顔をして、わたしをじっとみつめていた。

「鶴丸?」
「しっているか、主。月経の女性は神のものだという話を」
「……どうしたの?」

 鶴丸はわたしを横抱きにして、布団の上へ移動する。

「神がほしい女の身体から血を出させることを、やっぱり君はしらないんだろうな」

 憔悴した顔の鶴丸をみて、わたしは不安になり彼の名前をよぶ。けれどよんでも鶴丸は首を横にふるだけだった。

「すまない。もう、戻れないんだ」

 鶴丸がわたしに覆いかぶさる。
 まるでしらない人のようだった。蝋燭の光だけをたよりにみているせいだろうか、鶴丸の瞳は薄暗い。

 けれど、その表情は胸が苦しくて泣きたくなるほど綺麗だった。


「――主……おれを、赦さないでくれ」


 きいたことのある言葉だった。

 ぼんやりと鶴丸をみていると、彼はわたしの腰をなでる。浴衣の帯がゆるんだことにきづいて、わたしは体を起こして逃げようとした。しかしそんなことは予想済みだったのか、すぐにわたしの両手はつかまって腰紐で固く結ばれ、布団の上に押しつけられた。

「鶴ま……むっ……」

 二度目の口づけは荒々しかった。唇を噛むように吸われ、歯の裏側や頬裏の肉を鶴丸の舌が這う。経験のないわたしは羞恥で目尻に涙がたまった。

「ふっ……んぁ……」
「……ん……」

 唇がはなれると、わたしと鶴丸の間にどちらともいえない唾液の糸ができていた。

「はぁ……主……」

 鶴丸が自身の腰紐も解いた。細い体だとおもっていたけれど、晒された白い胸板はほどよく筋肉がついていた。

「最初はこんなつもりじゃなかった」

 悲しげな声だった。
 声をだしてこたえようとしたけれど、うまくでない。
 鶴丸の指がわたしの胸をなぞる。

「おれは君の指の温かさをしることができるだけで幸せだった。『君がほしい』というおもいはずっと秘めていればいいと……それなのに、なぁ……おれは……神というのはそれさえもできないらしい」

 鶴丸がなにをいっているのかわからない。彼の指はわたしの胸の輪郭をなぞり終え、ゆっくりと下へすすんでいる。

「まあいま、こんなことを君にいっても意味はないだろうが」

 ああだめだ、これ以上さきに指がすすんでしまったら……。
 股の間からどろりとしたものが吐き出される感触に眩暈がする。いやだ、みられたくないのにどう拒絶すればいいのかわからない。

「大丈夫だ、主。俺は君の赤が綺麗だとしっている」

 下着の中に鶴丸の手がはいり、ぐちゅぐちゅと血をかきまぜる音が響いた。その音だけをきくなら、わたしのからだの蜜の音だとおもうだろう。
 鶴丸の親指は蕾をつぶし、人差し指は中の血をかきだすようにうごく。

「……ーっ」
「すごい量の血だな。苦しかっただろう? 今、楽にしてやる」

 もう一本指がはいり膣がじゅぷりと広げられる。たっぷり奥まで咥えさせると、二本の指はばらばらに動きだした。

「っんあ……は……っん」

 やめてと首を横にふっても、鶴丸は容赦なくせめる。両腕がふさがれているせいで、びくんびくんと感じては胸をつきだしてしまう。

「んんんんあっ……だっ……ふぁっ、んあああああああ」
「ああ、ここもいじったほうがいいか」

 桜色の舌がぬちゃりと音をたてて乳首を刺激する。下から上へ舌で乳首をもちあげるようになめられるたびに、胸がゆれる。それを面白がるように何度も同じ行為をくりかえしてきた。
 涙目で鶴丸をみつめると目が合い、彼はにやっと笑いちゅうちゅうと乳首を吸いだした。

「ひんあっ………ッあああああ」

 鶴丸の口に含められた乳首は舌で遊ばれ、そして時々歯でやさしく噛まれた。胸と唇に隙間ができるたびにじゅぱじゅぱと卑猥な音が響く。

「んっ……やわらかいな」

 おいしそうにつぶやく鶴丸にわたしの全身がかあっと熱くなった。

 生理のせいか鶴丸に与えられる刺激にわたしの体は正直に反応してしまう。ついもらしてしまう声も、だんだん快楽に溺れたような淫らな声になっているきがした。かきだされた血はわたしの股を濡らすだけでなく、布団や鶴丸の浴衣まで汚していた。

「血で、汚れ……ぁ……」
「きにしなくていい。染まるなら、君の血で染まりたい……」
「鶴丸……」
「こういうとき、かわいい君の唇から名をよばれるとたまらないな」

 静かにやさしく笑う鶴丸をみて、わたしはほっとした。

「つるま――」
「罪悪感がわく、すこし黙っていてくれ」

 鶴丸が私の唇をつよく噛む。あまりの痛みに悲鳴がでた。

「いっーー」

 唇から歯が離れる。
 その唇を鶴丸の舌がちろちろとなめると、ひりひりした。たぶん、噛まれたときに切れたからだろう。

 どうしてこんなに悲しくなることをするのだろう。鶴丸を仲間にして一年以上もたつのに、彼がなにを考えているのかわからない。

 いや、そんなのあたりまえだ。鶴丸は刀で、神で……人間ではない。だとしたらいま、ここにいるのは神なんだろう。わたしのしらない遠い存在なんだ。

 胸が、ちくりと痛んだ。
 けれどわたしの口はあたえられる愉悦を吐き出すばかりだ。

「ふ……ぁ……っ」

 鶴丸の親指が蕾をぎゅっとつぶす。びりびりと痺れが全身にかけめぐりいってしまいそうになると、その指は蕾から離れた。

 ……わざとなのだろうか。わたしはまだ一度もいってない。

 唇はふさがっているけれど、なんとか息をととのえる。
 熱くなった体が落ち着きだすと、また鶴丸は蕾を刺激しはじめた。

「ぁふ、やっ……」

 そうして執拗に花弁のふちをなぞられ、わたしの中からぽこりと音をたててなにかが吐きだされた。

「あ……ぃや……」
「だいぶ楽になったんじゃないのか?」

 鶴丸は唇をはなすと、手を私にみせた。その手は透明な液体のほうが多く付着しているせいで、それほど赤くなかった。

「ほら、こんなに濡れてるぜ」
「や、やだ……」

 その濡れた指を、鶴丸はみせつけるようになめた。

「なにして」
「いや、いつなめても主の血と蜜はおいしいとおもってな。ついなめてしまう」
「そんなのおいしいわけない」
「そうか? ならあとで主もなめるか? もちろん、おれが君の中にはいったものを、だが」

 股の先に肉の棒があたった。

「やっ」
「いきたいだろう、主? それとも、いかない程度に動いてほしいか」
「あ、やっ……ああああああっ」

 ぐちゃぐちゃになった肉の穴に鶴丸がはいっていく。指とは違う感触に腰がよじれた。

「……っは、君の中は気持ちいいな」

 ちゅっぷちゅっぷと最初はゆったりと律動する。奥へ突かれるたびにわたしの子宮の入り口がきゅっとしまった。

「んっ……ぁうっ……はんっ……」

 心の奥底で求めていた刺激にわたしは悦んでいる。生理だというのに、鶴丸を受け入れさせられて悦んでいる。
 どうしてこんなことをするのだろう、なんて疑問は白くなって消えていく。頭の中がふわふわになっているみたいだった。

「それでどうする? 君はいきたいか?」
「ぁあ……やっ……」

 そんなの、いえるわけがない。
 わたしはもっと奥に鶴丸があたるように腰を動かす。
 それなのに、鶴丸はわたしがほしい場所を避けて律動を繰り返す。

「そんなに腰を動かしてどうした。いきたくないんだろう?」
「ん、いきた……いっ……ぐちゃぐちゃ……しっんぁ……あああああああああああ」

 とつぜん、強く最奥を突かれてわたしはかるくたっした。

「ひゃ……」

 震える体をしずめようとするけれど、律動がまえよりもはやくなっているせいでうまくできない。いったばかりの体に甘い痺れが何度もはしる。

「わたし、いった……もういぁ……いった……からっ……んんん」
「おれはまだいってない、最後までつきあってもらうぜ。それになぁ、生理中だと主も気持ちいいだろう? いつもより感じたりしないのか?」
「しらな……ぁあっ、わたしは……これがはじめっんんああああ」
「そう……か」

 鶴丸がさびしそうな顔をした。まただ。わたしはなにか彼を傷つけるようなことをいってしまったのだろうか。
 でも、またそんな考えも白くとけていく。
 鶴丸がわたしの中を、一番感じる部分を執拗に突く。わたしの弱い場所などお見通しらしい。

 はあ、はあ、と荒く息を吐きながらわたしを犯す鶴丸をみて、また胸が苦しくなる。
 けれどやっぱりわたしからでるのはだらしない嬌声だった。
 ちがう、ほんとうはなにか伝えたいのに。伝えなければいけないはずなのに。なにをいえばいいのかわからない。

 きづいたら鶴丸の股もわたしと同じで赤く染まっていた。青白い肌に付着した赤はほんとうにわたしのものだろうか、と疑いたくなるほど綺麗だった。
 下敷きにしている浴衣や布団はもう言い訳ができないくらいに赤くなっているのだろう、とぼんやりと心配する。

「ずいぶん、余裕そうだな」

 鶴丸がわたしの蕾をきゅっとつぶす。また頭が真っ白になってきーんと耳鳴りがした。

「っあ……ああああああっ……」
「おい、あまりきつくしめ……うっ」
「ふぁっ……」

 膣に、自分のものではない液体があたった。

「ぁ……うそ……」
「悪いな。まだだ」

 律動が再開する。こんどはわたしの血と蜜と精液をまぜるように。そうしてそれを奥へいれてわたしの子宮にいれるつもりなのだろうか。体を熱くして蜜を出して嬌声をあげている場合ではないのにわたしの声は濡れていた。


 欲に溺れた声を出さないように唇をきゅっととじる。

(ちゅぷちゅぷ、きもちい……んっ……)

 ――いつのまにか、わたしは律動にあわせて腰を動かしていた。


     …


 何度、出されただろう。
 きづいたらわたしの両腕の紐はとかれて、鶴丸を抱きしめて受けいれて、出された精液をおとさないようにのみこんでいた。

「んっ……鶴丸……」
「主……」
「……ぁ」

 ぬちゃ……と肉棒がはなれた。ずっとつながっていたせいか、空気にふれて冷たいと感じる。
 鶴丸は立ち上がると、わたしの上半身を起こさせさせ、そして肉の棒をわたしの唇につけた。

「主?」

 唇の先にあたる棒は白濁した液と血と透明な液体がまざっていた。これを口に含まないといけないのかとおもうと、怖い。
 首を横にふる。

「お、お願いそれだ……けぁ……うっ……」

 そのすこしひらいた口を狙ったように鶴丸がはいっていく。怖くて逃げようとおもっても、体はぐったりとして動かない。
 根本までのみこむことはしなかったけれど、わたしは喉が苦しかった。

「ん……あ……」

 どんな味がするかなんてしりたくもないのに、棒の下に舌が這ってしまう。血の味は不思議としなかった。しょっぱくて、からまるような粘りけのある液体だった。

「動くぜ?」

 私の頭をつかむと、鶴丸の腰が動きだした。
 ちゅぱちゅぱとわたしの口内をおかす肉の棒にわたしはぱくぱくと口をあけて受けいれてしまう。

「もっと動いてもいいか?」

 頭をなでられ、わたしはおもわず鶴丸をさらに深く咥えてしまう。鶴丸は辛そうに顔を歪ませて、腰の動きを速めた。

「んっ……あッ……んむ…………はぁ……」

 彼を吸って、舌でなめて……そんなことをしているとわたしの下半身がふたたびうずいた。
 すこしでもこのうずきをなんとかしたくて、股間を布団でこする。

 その音をききながら、わたしも舌と腰を動かしていく。
 もう鶴丸の味しかしないそれは、私の唾液でべとべとだった。

「主、そろそろぬきた……ぅ……まて……」

 口内の鶴丸がびくんとふるえている。わたしの口から自身をぬこうとするけれど、わたしは鶴丸をつよく吸った。

「ぐっ……ばかか……君は……」

 口の中に絡みつくようななにかがはいった。その量はわたしの予想よりもおおく、口からこぼれてしまいそうだ。

「あっ……うっ……」

 鶴丸はわたしの口から自身をひきぬいた。
 わたしは精液をちょっとずつ喉に通す。

「無理をするな」
「んっ……」

 ごくり、とわたしはのみこんだ。喉を通って鶴丸の精液がながれていくのがわかる。

「……そんなのいまさらです。全部、のんじゃいました」

 鶴丸の顔をみると、耳まで赤く染まっていた。

「いや、ああ……そうだな。君にはかなわないな」

 肩をおさえられ、わたしはまた布団の上に横になった。見上げると鶴丸の瞳は濡れていた。

「君はほんとうに、おれにはもったいない」

 鶴丸は「次はやさしくする」と耳元でささやくと、口をひらこうとする私の唇をふさいだ。
 熱くなったわたしの股間に鶴丸がふたたびはいる。



 ――泣きながらわたしを抱くのは、確かに鶴丸だった。


     …


 夏の朝日はまぶしい。目がさめたのはこの強すぎる光のせいなのだろう。
 起きよう、とおもうと腰が痛かった。顎や腹もなんだかおもたい。わたしはふわふわの白い布団から抜けだした。

 机の引き出しをあけて、赤い日記帳をひらく。
 何度みても、心臓に悪い日記だ。
 昨日の日記をみて、わたしは舌が痺れそうになる。

 それでもみなければならない。


 そのページは所々、黒く塗りつぶされていた。たぶん、これはわたしがしたものではない。
 『たぶん』、というのはわたしは昨日の夜なにがあったのか、おぼえていないからだ。

 一年くらい前からだろうか。
 わたしは生理がくると、記憶にぽっかりと穴があくようになった。それに気づくのは、生理が止まった日だ。
 どんなに血の量が多くても、記憶を失うとぴたりと血が止まる。
 現代に戻り、産婦人科には行ってない。このことを政府に報告してもいない。
 そのかわり、わたしは日記を書いた。けれど、すぐにばれた。

 わたしは黒く塗られたページをめくる。
 そのボールペンで書いたページの裏側は筆圧でへこんでいた。
 ……どうして日記だけはボールペンで書くのか、まだ気づいていないらしい。
 こういうところは刀らしい。

 昨日の夜の出来事を読み終え、わたしはなんとなく日記をぺらぺらとめくる。
 日記を書いて、最初に記憶をなくした日のことが書かれたページでわたしは手がとまった。
 そのページは破れており、その破れた片割れが真っ黒になってはさまれていた。



 ――生理の周期は短くなっていく。
 いつか、彼に抱かれても生理が続く日がくるのだろう。
 その日を考えると、わたしは口の形が歪みそうになる。

 はやく、その日がくればいい。

 そうすればわたし、鶴丸のものになるわ。