鶴丸の股間を審神者が救う話

 八月。空は一段と青くなり、日差しの強い季節になった。この時期はできるだけ、出陣や遠征は朝早く起きて午前中に終わらせるようにしている。なので、午後からは政府の命令でもない限り、皆部屋で涼んでいる。審神者である私も、冷たい麦茶を飲みながら、明日の出陣先と編成を考えていた。

「主、ちょっと話があるんだがいいかい?」

 襖越しに鶴丸の声が聞こえた。

「いいよ」

 すっ、と静かに襖を開くと、鶴丸は部屋に入った。夏のせいか、鶴丸は白い肌を赤く染め、大きな粒の汗をかいていた。

「今日、そんなに暑かった?」

 首を横に振って、彼は答えた。

「それが聞いてくれ。最近おかしいんだ。戦から帰ってくると、苦しくなることがある」
「……どの辺が苦しいの?」

 私が本丸に来てから既に一年半が経っていた。そして鶴丸と出会ったのも一年半前だ。人の体を与えたことは何度もあったが、一年半も顕現させ続けたことは今までない。

「この辺だ……。きみなら、分かるか?」

 鶴丸が指さした場所に私は目を白黒する。

「えっと、そこは」
「さすがに脱いだ方がいいか」
「う、ううん! ちょっと待って、考えさせて」

 指さされた場所はお腹の下。股関節の辺りだ。鶴丸はとても苦しそうに顔を赤らめているので、これが悪戯でないことくらいはわかる。
 ……駄目だ、これ以上考えるのはよくない。意識してはいけない。
 そもそも彼は人ではなく、元は刀だ。鶴丸はきっと私のことをお医者さんのように思っているから話してくれたのだ。ならば、私もお医者さんの様に、彼の患部を見るしかない。大丈夫、きっと私が思っているような状態ではない筈だ。

「うん……うん、大丈夫。私は今からお医者さん、お医者さん……大丈夫」
「……? きみは一体誰と話しているんだい」
「ああ、いや独り言。そうだね、一度、その苦しい所を見せて貰っていいかな」
「ああ」

 ごそごそと衣擦れの音がした後、ぱさりと袴が落ちた。鶴丸の下半身にあるのは白い褌だけだ。それさえも、鶴丸は脱いでいく。

 やっぱり、そこなんだ……。

 太腿とかそこら辺かもしれないという私の小さな希望は簡単に打ち砕かれる。男の人のちんちんは今まで、あまり見たことがない。ドキドキしながら、鶴丸の股間を見守ると、肉の棒が姿を現した。

 すごい。長くて、太い。

 見事なちんちんに私は息を呑んだ。今までこんな大きなちんちんが鶴丸の褌の中に納まっていたのかと思うと、驚いた。男の人は皆、こんなに大きなものを隠しているのだろうか。女性の胸なんかは、簡単には大きさを隠すことができないのに。

「どこかおかしいだろうか?」
「ええっと……」

 おかしい所、と言われてもおかしくないちんちんを見たことがない。

「やっぱり、このちんちんの先が勝手に上がってしまうのはおかしいよな。普段はこんな風じゃないんだ。下を向いているし、何よりこんなに固くもないし、大きく膨らんでもいない。こうなると、ちんちんが苦しくて、むずむずして辛いんだ。厠に行っても、治らない」
「確かに、おかしいですね」

 それだけは、今の私でも確信を持って言えた。もしかすると、彼は何かの病気にかかっているのかもしれない。これは鶴丸のちんちんの一大事だ。恥ずかしがっている場合ではない。人間である私が! 彼の主である私が! 鶴丸を救わなくてはならない!

 使命感にかられた私は、鶴丸の股間をじっと見つめた。しかし、見つめれば見つめるほど、肉の棒は膨らんでいっているような気がした。

「鶴丸、どんどん大きくなってる……」
「すまない。むずむずして、俺には止められない」

 こんなに鶴丸のちんちんが膨らんでしまったらどうなってしまうのだろう。見ているだけでも苦しそうだった。そしていつまでもじっと見つめていた私はある考えに辿りつく。

 ――このちんちんは、何かを出したがっているのではないだろうか。

 その何かを出してしまえば、このちんちんは元の下向きの、細く長く、柔らかいマイルドちんちんに戻るのではないか。

「鶴丸、このちんちん……触ったことある?」
「いや、怖くて触ったことはない」
「私が、触ってみてもいい?」
「きみに、そんな汚いものを触らせる訳にはいかない」
「えっと……じゃあ褌越しで触っていいかな。触ってみたら、何か分かるかも」
「ん、んん……それじゃあ頼む」

 苦しそうに鶴丸は息を吐いた。彼のちんちんはどんどん鶴丸を追い詰める。こんなに大きく膨らんでいたらきっと痛いだろう。私は鶴丸はさっきまで履いていた褌を手に取り、そっと鶴丸のちんちんに触れる。

「痛かったら、言ってね」

 こくり、と鶴丸が頷いた。

 私は握手するように、鶴丸のちんちんを握る。大きなちんちんはどくんどくんと脈打っていて、ちんちんを手放しそうになる。すごい、ちんちんが脈打ってる……。しかし、感動している場合ではない。このちんちんはどれくらいの力の強さなら耐えられるのだろうか。昔、股間に蹴りを入れて苦しそうに蹲る男子を見たことがある。力を入れ過ぎれば、鶴丸をさらに苦しませることになる。弱めに二回ほどにぎにぎすると、鶴丸は小さく吐息を漏らした。

「大丈夫?」
「い、いや……俺のことは気にしないで続けてくれ」

 もう少し弱い力の方がいいのだろうか。気持ち、力を弱めてちんちんを三回ほど握る。変化はあまりない。先端から何か出てくればいいのだが、何も出る気配がない。

「もう少し強くていい」
「分かった……」

 言われた通り、私は強めにちんちんを握った。

「は、ぁ……」

 鶴丸は眉を寄せ、甘い息を吐いた。見てはいけない物を見てしまった気分で、私は目を逸らす。痛そうには見えないので、もう少しちんちんを揉み続けることにした。

「ん、ァ……はっ、う」

 手を動かせば動かすほど、鶴丸は声を漏らした。この辺で止めた方がいいのではないか、と考えているとちんちんを握る私の手を鶴丸の手が覆った。

「主、もっとして欲しい」
「なんか出そう?」
「ああ、きみに触られていると何かが出そうな気がする。だから、止めないでくれ。それと、隣に来て触って欲しい」
「いいけど……」
「体から力が抜けてしまいそうなんだ、こうしていていいか」

 そう言って、鶴丸は隣に座った私の肩に頭を預けた。こんなに密着したことは今まで一度もない。彼は刀剣とはいえ、今は人の体を持っている。それも、見た目はそこら辺の男よりも美しい。そんな鶴丸が耳に息がかかるほど近くにいるのだ。ドキドキしない筈がない。ちんちんを持つ手が震えてしまう。

「きみの手は可愛いなあ」
「ちょ、ちょっと鶴丸、そんなに強く握ったら」
「大丈夫だ、んっ」

 鶴丸は私にちんちんを強く握らせると、ちんちんの根本と先端を行ったり来たりさせた。だんだん、それは早くなっていくし、強弱もつきはじめる。私は鶴丸の手が導く通りに鶴丸のちんちんを握る。
 次第に鶴丸の息は荒くなっていって、とてもいけないことをしている気分になっていった。

「鶴丸、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ、もう少しで、アッ……くる、さ」
「わかった……」

 聞いているこっちまで、変な声を出してしまいそうだった。それくらい鶴丸の漏らす声には、色気があって、こっちまでそういう気持ちになってしまう。

「っは、……」

 触っていたちんちんに違和感が出始めた。何かが起こる予感がして、じっとちんちんの先端を見つめる。鶴丸はどんどん手を速め、強く、強く、握り始めた。「あっ」という掠れた声と同時に、ちんちんがどくんと大きく脈打った。その後にびゅっと白い何かが飛び出す。それは一度だけではなく、二度、三度と飛び出した。

 その白い液体は畳の上にぶちまけられ、私と鶴丸はそれに釘付けになった。

「なんだ、これは……」

 最初に口を開いたのは鶴丸だった。自分が出した物であっても、鶴丸には見覚えのないものだった。私もこんなものは見たことがない。彼は何か病気の類にかかっているのだろうか。

「分からないけど、でも……鶴丸のちんちん、元に戻ってる?」
「ああ、これがいつものちんちんだ……」

 ちんちんを見ると、もう上を向いていなかった。だらん、と下がっている。大きさも、前より小さくなっているし、柔らかそうにふにゃっとしている。どこからどう見てもマイルドちんちんだ。

 上手くいったと分かり、私はほっと息を吐く。理由は分からないけど、一先ずこれで安心だ。後は他の審神者に同じようなことが起こらなかったかどうか聞いてみよう。

「ありがとう主」
「いいのよ。それよりごめんね。そんなに辛い目に遭っていたのに、私から気づいてあげることができなくて」
「いいんだ、きみには助けられた。それより主、これ以上面倒を見てもらうのはすまないと思うんだが、もう少しだけこのままでいいかい」
「いいけど、何かあった?」

 鶴丸は言い辛そうに、唇を尖らせると小さな声で答える。

「……もう少しきみとこうしていたい。こうしているとほっとするのさ」

 鶴丸の身体はぐったりとしていて、手はだらんと下がっていた。今までずっと耐えていたから、疲労がたまっているのだろう。

「いいよ」
「ありがとう」

 ふわり、と口元を笑むと鶴丸はすぐに瞼を閉じてしまった。穏やかで、どこか幼い寝顔を見ていると私まで眠くなってしまった。


     □

 次の日、私は同じく審神者をしている友人に電話をかけた。昨日の鶴丸と同じような事態になっている刀剣がいるのかどうか、まずは気心の知れた友人にして気持ちを落ち着かせたかった。

「……というわけでね、刀剣男士の股間が固くなったりしたことってある?」
「あのさぁ」

 一通り昨日の不思議な出来事を友人に話すと、溜息を吐かれてしまった。これは審神者として普通、知っておかなければならないことなのかもしれない。

「保健の教科書、ちゃんと読んでた?」
「読んでたよ? それと何か関係があるの?」

 保険の教科書には股間が固くなって、あんな白い液体が出ることは書かれていない。習っていた頃の記憶を呼んでもやはり、それらしい事は習っていない。

「じゃあ、セックスは」
「し、したことないよ!」

 なんて恥ずかしいことを言うのだろう。というより、性行為は関係ないのに。

「話がずれてないかな?」
「ずれてないわよ。あなたの鶴丸の股間がどうして固くなったのか教えるから、これから私が言う事、ちゃんと信じてよね」
「わかった」

 そこから友人の話す内容に、私はみるみる顔が赤くなった。「待って」なんて通じない。畳みかけるように、私が鶴丸にした行為が何なのかを教えられる。その上、赤子の作り方まで丁寧に教えてもらうことになってしまった。

 その情報に私は電話を持つ手が震え、鶴丸のちんちんの感触が生々しくよみがえった。

「と、いうことだから。突然知って、信じたくないかもしれないけどこれが本当だから」

 襖の外から「主、いるか?」と鶴丸の声がした。気まずいけれど友人にこれ以上、性関係の濃ゆい話を聞きたくなかったのもあり、私は鶴丸を優先することにした。

「ごめん、呼ばれたから。教えてくれてありがとう」
「また夜に電話かけるからね」
「うん」

 すぐに電話を切り「入っていいよ」と鶴丸に声をかけた。

 入ってきた鶴丸は熱でもあるのかと聞きたくなるほど、頬も耳も真っ赤にさせていた。蜜色の瞳は濡れていて、桜色の唇からは苦しそうな息が吐き出されていた。

「悪い。頼みがあるんだ、主」

 その表情、その言葉で、私は鶴丸が言わんとすることを理解する。

「昨日したことを、もう一度して欲しい」

 私の答えも聞かずに、袴が畳の上にぱさりと落ちたのだった。